로그인《side ブライド・スレイヤー・ハーケンス》 我は思う。人とは愚かな生き物だ。己よりも優れた者を認められない。むしろ、能力のある者たちは嫉妬され、その能力を発揮できないまま潰されてしまう。 そんな理不尽な世の中でよいのか? よいはずがない。 第一皇子である兄は無能だ。それは誰の目から見ても明らかであり、我を皇帝として迎えるのが最善の一手である。 そう進言したが、凡王である父上には理解できないようだ。 我と父上は、決定的に決裂した。 学園に通っている間は我慢した。だが、もうそれも終わる。学園から戻った我を待っていたのは、病に伏した皇帝陛下と、兄である皇太子。 そして、我。 ここに呼び出された時点で、我の立場は決まっていた。いや、もとよりこの道を進むことは決めていた。 我は、この帝国を――そして、この腐りきった王朝を変える。「ブライド……。貴様を、私は信用することができん」 皇帝陛下は、病に侵された顔をしかめながら我を見た。 痩せこけた頬、力のない目。もはや、かつての皇帝の姿はそこにはない。「そもそも、お前は学園へ送った時から危険な存在だった」「……ほう」 我は静かに微笑んだ。「何を根拠に?」「お前が集めた者たちを見ろ……アイク、エドガー、カーミラ、ダリウス、リゼット……」 皇帝陛下は深く息を吐く。「全員、現在の帝国中枢に関わる者ばかりとなった。そして、お前は彼らを学園時代から囲い込んできた」「我は、才能ある者を見極めていただけだ」「違う。お前は帝国を乗っ取るつもりだ」 その言葉に、我はわずかに笑みを深めた。父上の言葉を聞き、隣にいた兄の肩が震える。「面白いことを言う……。では、父上……」 我は一歩前に出て、皇帝のすぐ
《side フライ・エルトール》 領地経営を本格的に始めてから、しばらくが経った。 軍備の増強、食糧の確保、防御策の整備――やるべきことはすべて終わった。 戦争を止めようとは思わない。 世界の流れは変わらないし、僕ごときがどうこうできるものではない。 だけど、大切な人たちを守るための準備はできた。 あとは、気楽に時が流れるのを待つだけだ。時が来たら防備を固め、嵐が過ぎるのを待てばいい。 そんなわけで、僕はいつもの気楽な日々に戻った。やるべき仕事は人に割り振り、僕は自由時間を満喫することにした。 公爵領を巡るという名目で、飲み歩きの旅を再開する。行く先々で、領民たちは歓迎してくれる。「おお、公爵様! またお越しとはありがたい!」「今日もいい酒が入ってますぜ!」「公爵様がこうして気軽に飲みに来てくれるのは、本当にありがたいよ!」 こんな感じで気軽に飲んで、食べて、のんびりする。 ……ただ、一つだけ気になることがあった。それは、領民たちの視線だ。 歓迎はしてくれるのだけれど、どこか決意を秘めた瞳で僕を見ているのだ。(なんだろう、この感じ……?) いつもなら気楽に声をかけてくれる人たちが、妙に敬意を込めた態度を取ってくる。「公爵様……俺たちは、ついていきますぜ!」「何が起きても、公爵様についていく覚悟はできております!」「エルトールの民は、公爵様と共にあります!」(……うん、なんかとんでもない勘違いをされてる気がするぞ) どうやら領民たちは、僕が何かを仕掛けると思っているらしい。(いやいや、そんな面倒くさいこと考えてないからね?) とはいえ、訂正するのも面倒だし、放っておこう。 ♢ そんなある日、エリザベートが真剣な顔で僕のもとを訪れた。「フライ様
《side セシリア・ローズ・アーリントン》 私は公国の未来を守るために、ある決断を下しました。 帝国内部におけるブライド皇子の反乱の兆しを、誰よりも早く情報として手に入れたのは、ほんの数日前のことです。 そしてもう一つ、それに呼応するように、フライ・エルトール公爵の領地において、強化された防衛設備が正式にお披露目されました。 以前から土木工事が進められていましたが、まさか領境に巨大な壁を造るとは考えもしませんでした。 この二つの動きが、今まさに公国を取り巻く環境を大きく変えようとしています。 公国は、帝国と王国の両方に面した中立国です。 商業を中心に発展した小国ではありますが、これまで情報と商売を武器に立ち回ってきました。 人口が少ないため、武力で大国に対抗することは不可能です。 どちらかの大国が戦を始めれば、公国は巻き込まれる運命にあります。 特に帝国が内乱状態に陥る可能性がある今、その影響が公国にも及ぶことは避けられません。 そんな時、帝国の貴族たちの間で、ある噂が広まっていました。「エルトール公爵領が、壁だけでなく急速に軍備を増強しているというのですか?」「はい。フライ・エルトールは、帝国の覇権を狙っているのではないでしょうか? 第一皇子と第二皇子が内乱を始めるタイミングを狙っているのではないかと」 私は、この噂がただの憶測では済まされない可能性を感じています。 指揮官として、フライ・エルトール様の能力を知っているからです。 だからこそ、フライ様の婚約者であるエリザベート・ユーハイム様に接触することを決意しました。彼の真意を確かめるためです。 エリザベート様との会談は、私が公爵領へ赴き、彼女の私室で行われることになりました。 帝国の情報を扱うユーハイム伯爵家。 我が公国とも、何度も諜報戦を繰り広げてきた間柄です。 それに加え、フライ様の正妻という羨ま……いえ、確固たる立場を築いた彼女は、私
《side エリザベート・ユーハイム》 フライ様が軍備の強化、食糧の確保、防壁の建設を急速に進めていることに、私は以前から疑問を抱いておりました。 もちろん、戦争が起こる可能性を考えているのだろうということは理解できます。それは領地を持つ貴族として、当たり前の考えなのです。 ですが、それにしてもやりすぎではないかと思うほど、準備のペースが速いのです。 まるで、何かを確信しているかのように。だからこそ、私はフライ様に直接問いかけました。「フライ様、どうしてここまで領地の防衛を固めるのですか?」 フライ様は考えるような素振りを見せることもなく、すぐに答えました。「……起こるかもしれない戦争のためさ」 それだけです。 フライ様はいつも飄々としておられますが、時折、何かを見据えているような視線を向けることがあるのです。 きっと今回も、私には理解できない未来を見据えているのでしょう。 私は、その言葉の奥にあるものを知りたいと思ってしまう欲深い人間です。だからこそ、姉であるアイリーン姉様に相談することにしたのです。 ♢♢♢「フライ様が未来を予見している……?」 アイリーン姉様は私の話を聞いた後、静かに呟いた。「ええ、私にはそう思えるのです。まるで、これから起こる戦争をすでに知っているかのように、領地の備えを整えています」 学園都市にいた頃から、フライ様の行動は他の人とは違っているように思えました。常人には理解できないほど、全てが計算されているようでした。 異端者との戦いでも、学園都市が混乱に陥る前から対策を練っていたし、メイギスという異端者の魔神と遭遇した時も、フライ様はすぐに彼を「敵」だと見抜いていました。 普通なら、そんな判断ができるはずはありません。 フライ様は、まるで「未来の出来事を知っている者」のように動くのです。「それに……私には、もう一つの可能
《side 第三者視点・領民》 領民たちは、公爵家の変化に戸惑いを感じていた。フライ・エルトール様が公爵位を正式に継承することが決まってから、公爵領では多くの人々が行き交うようになった。「おい、聞いたか? フライ様が公爵家を正式に継いでから、領地の様子がガラッと変わってきたらしいぞ」 酒場の片隅で、一人の男がひそひそと話し始めた。そこには鍛冶屋の親方、農家の代表、酒場の女将など、領地のあちこちで働く人々が集まっていた。 公爵領にはいくつかの村や町が存在するが、このようにそれぞれの地元の代表が集まるのは稀なことである。「軍の訓練が厳しくなったのは知ってるだろう? 鬼人族の英雄バクザンって人が傭兵団を引き連れて指導に来ているらしいが、若い衆の鍛え方が半端じゃねぇらしいんだよ」 酒場の女将が口を開くと、鍛冶屋の親方も自分の周りで起きた変化を口にする。「それだけじゃないぜ。武器工房も拡大してやがる。ドワーフの職人が続々と集まってきてるんだ。剣や鎧の質も向上してるって話だ。わざわざドワーフのために、街を一から造るほどの力の入れようだ。だからって俺たちの仕事がなくなるんじゃなくて、むしろ忙しくなってやがる。どういうことだ?」 鍛冶屋の親方は、ドワーフに仕事を奪われると思っていた。だが、蓋を開けてみれば、今まで以上に忙しくなり、仕事にてんてこ舞いになっていた。「農地の方もそうだ。エルフを呼び込んで、作物の成長を手助けしてもらっているんだ。森も広げて、自然の要塞みたいにしているらしい。領地内の食糧生産量が一気に増えてるんだろ? 備蓄倉庫もどんどん増えてるし、俺のところでも管理が大変だぜ」 農家の代表は、農民たちからの苦情が多いのかと思えば、そうでもない。フライ様がゴーレムを使って農地をならしてくれるので、体を痛める農家が減り、むしろ時間に余裕ができる者まで現れた。「それだけじゃねぇんだ。聞いた話だと、領境に長い長い防壁を造り始めたらしいぞ。しかも、ただの壁じゃなくて、ゴーレムにもなるらしい」「な、なんだって!? それって……まるで、国を作ろうとし
《side フライ・エルトール》 僕は、二年前に公爵へ正式に就任することが決まり、ある覚悟を決めた。 そのために領地を巡って現状を確認し、一つ一つ、やらなければならないことを書き出していった。 仕事は思った以上に多かったが、それでも小説の未来を知る者として、できることをしておきたかったのです。 主に進めているのは、軍備の増強、食糧の確保、そして領地を守る防波堤の設置です。 1. 軍備の増強 まず、戦力の底上げが必要だと考えました。 公爵家の領地は比較的平和な土地だったため、あまり兵士の練度が高くありません。それでも外敵の脅威がゼロとは言えないため、最低限の冒険者や兵士を配置している程度です。 以前から傭兵稼業をしていたバクザンに協力を頼み、領内の若者たちを鍛えてもらうことにしました。「フライの兄貴よ、何か企んでんのか?」「んー? まぁ、将来に備えておきたいんだよね」「ほう、将来に備えてか。フライの兄貴が言うんだ。何かあるんだろ? いいぜ! 俺の指導は鬼がかっているが、ビシバシ鍛えてやるよ!」 バクザンは楽しそうに引き受けてくれた。「ノクスには、将来的に我が領の騎士団長になってもらいたい。妹さんもこちらに来てくれたわけだからね」「はい! ありがたき幸せです」 ブライド皇子にアイクがいるように、僕はノクスに将来も領地にいてもらいたい。そのため、強くなれる環境と妹さんが快適に暮らせる生活環境を整えることで、ノクスを我が領へ引き入れた。 学園都市に通っている間は、バクザンと共に傭兵として経験を積み、学園都市を卒業してからは領内で騎士見習いとして色々と勉強中だ。 バクザンが指導することで、この二年間で戦える人材が増えつつある。さらに、学園都市にいるフェル爺さんの紹介で、魔法戦士や騎士を育成した経験のある剣闘士たちも数名雇い入れた。 彼らには、剣闘士として名を上げたいと思っている者が多い。強さだけでなく、出世を望む者たちを引き入れていった。 傭兵や剣闘士だけではなく、







